田宮二郎の代表作といえば、山崎豊子原作のドラマ『白い巨塔』です。彼が演じた浪速大学医学部第一外科助教授・財前五郎は、医学界の権力闘争を冷徹に駆け上がる野心家でありながら、最後は胃がんによって非業の死を遂げる難役でした。
かつて1966年の大映映画版でも同役を演じた田宮は、このテレビドラマ版の企画を自ら持ち込み、並々ならぬ執念で制作に挑んでいました。しかし、撮影が進むにつれて役柄と自分自身の境界線が曖昧になっていきました。
「自分は本当にがんを患っているのではないか」と思い込み、連日大学病院で精密検査を受けるなど、極限の役作りにのめり込んでいきました。劇中で財前五郎が息を引き取るシーンの撮影では、自らの死生観を完全に投影。撮影終了後、スタッフに「これで財前五郎として死ねる」と漏らしていたという証言も残されています。
自らの死の直後、皮肉にも1979年1月6日に放送された最終回は、関東地区で視聴率31.4%、関西地区では40%超という驚異的な数値を記録。迫真の演技が本物の生命の灯火を削り取った結果であったことは、関係者の胸に深い傷と畏敬を残しました。