『呪術廻戦』の物語の情緒的な背骨を担っているのが、五条悟と夏油傑の関係性です。コミックス第8巻・第9巻に収録された「懐玉・玉折」で描かれた2人の青春時代は、ファンの間でも別格の支持を集めています。
高専時代の彼らは自他共に認める「俺たち最強」でした。しかし、星漿体・天内理子の護衛任務と、天与呪縛の刺客・伏黒甚爾の強襲が、2人の運命を真っ二つに引き裂きます。臨死体験を経て反転術式と無下限呪術の自動ガードを完成させ、真の「天上天下唯我独尊」へと昇華した五条悟。その一方で、非術師を守るために呪霊を「吐瀉物を処理し続けるような味」と称しながら嚥下し続けた夏油傑の精神は、確実に摩耗していきました。
「非術師を皆殺しにして呪術師だけの世界を作る」という極論へ舵を切った夏油に対し、五条は新宿の雑踏で引き金を引くことができませんでした。かつて語り合った「たった一人の親友」を殺せなかった五条の後悔は、10年後の0巻(劇場版)における処刑、そして「肉体は夏油でありながら魂を羂索に弄ばれる」という最悪の悲劇を招くことになります。
互いが互いの「心理的バウンダリー(境界線)」を尊重できず、最強であるがゆえに孤独を分かち合えなかった2人の悲哀。渋谷事変で五条が獄門疆に封じられた際、偽夏油に向かって放った「肉体も呪力も夏油傑だが、俺の魂がそれを否定してんだよ」という叫びは、二人の間に存在した不可侵の絆を証明する屈指の名シーンとして刻まれています。