天河大弁財天社の拝殿に足を踏み入れた者が息を呑むのが、天井から吊るされた独特の神具「五十鈴(いすず)」である。一般的な神社の本坪鈴とは全く異なり、3つの黄金の鈴が正三角形を描くように組み合わされた特異な形状をしている。
この五十鈴は、天照大御神が天岩戸に隠れた際、芸能の祖神である天宇受売命(あめのうずめのみこと)が神代鈴をつけた矛を持って舞い踊ったという神話に由来する。「みむすびの精神」(いくむすび・たるむすび・たまつめむすび)を具現化したものとされ、揺らすと「シャラシャラ」と甲高く、どこか金属音の枠を超えた澄んだ倍音が響き渡る。
五十鈴を鳴らすには独特のコツが必要で、ただ力任せに振っても美しい音色は出ない。円を描くように滑らかに回すことで初めて三つの鈴が共鳴する構造になっており、この身体操作そのものが参拝者に無心と集中を要求する。
参拝者の間で報告される「強烈な睡魔に襲われた」「頭痛が消えた」「空間の色彩が鮮やかに見えた」といった不思議な体験談について、音響物理や生理学の観点からアプローチすると興味深い事実が見えてくる。五十鈴が発する高周波の倍音や、境内を取り囲む樹齢数百年の杉木立が発散するフィトンチッド、さらには紀伊山地の急激な気圧変化は、人間の自律神経系に直接的な刺激を与える。
日常の過度なデジタルストレスに晒された現代人が、山中の清浄な空気と微細な共鳴音に包まれることで、脳波がリラックス状態を示すアルファ波から瞑想状態に近いシータ波へと急激にシフトする。これが一種のトランス状態や深い安らぎを引き起こし、「神秘体験」として知覚されている可能性が高い。