このポスターの持つ狂気的な深度を語る上で欠かせないのが、1988年4月16日の劇場公開時における異例の興行形態です。本作は宮崎駿監督の『となりのトトロ』と2本立てで同時上映されました。当時、東宝配給のもと、徳間書店が主導した『となりのトトロ』と、新潮社が初出資した『火垂るの墓』という、出版社の垣根を越えた一大プロジェクトでした。
映画館に並んで掲示された2枚のポスターのコントラストは、映画史に残るほど鮮烈です。片や『となりのトトロ』は、雨の降るバス停で少女と愛らしい森の主が佇み、「このへんな生きものは、まだ日本にいるのです。たぶん。」という希望と郷愁に満ちたコピーが躍る明るいデザイン。片や『火垂るの墓』は、闇の中に光る粒を見上げる兄妹とともに、「4歳と14歳で、生きようと思った。」という重厚な言葉が刻まれていました。
当時の劇場動員の実態について、劇場関係者の記録や観客の回想録には壮絶な光景が記されています。「トトロを観て夢見心地になった子ども連れの観客が、続けて上映された『火垂るの墓』の圧倒的なリアリズムと悲劇に打ちのめされ、館内のあちこちから子どもの泣き叫ぶ声が響いた」「上映順によって劇場の空気が天国から地獄へと反転した」というエピソードは枚挙に暇がありません。宣伝ポスターにおける「蛍と見せかけた焼夷弾」の二重構造は、この残酷なまでの興行ギャップの構造そのものを宿していたと言えます。