全編を通じて極めて重要なターニングポイントとなったのが、単行本第38巻、春高バレー準々決勝・鴎台戦の直前における春高バレー 小さな巨人 再会のシークエンスです。
月島明光に連れられて体育館の通路に現れた宇内天満は、観客席へ向かう途中で烏野高校の面々と遭遇します。目の前に立つ「かつての背番号10」に対し、日向翔陽は言葉を失いました。そこで宇内が発した飾らない言葉こそが、本作における屈指の名シーンを生み出します。
「がっかりした?」
バレーボールを続けず、背もそれほど大きくなく、ごく普通の私服を着て笑う元エースの口から飛び出したこの問いかけは、日向が内面に抱え込んでいた「偶像」を静かに解体しました。
驚くべきことに、日向の口から出た感情は失望ではありませんでした。胸に手を当て、自らの鼓動を確かめた日向は、「がっかり……してないです」と素直に返答します。日向は長年、自分が低身長であることの免罪符として、あるいは到達すべき唯一のゴールとして「小さな巨人」というシンボルを崇拝してきました。しかし、目の前にいる等身大の宇内天満という人間を認識した瞬間、日向は「自分は小さな巨人になる必要はない。自分は日向翔陽としてコートに立っている」という本質的な自己肯定に目覚めたのです。
直後に始まる鴎台戦において、星海光来という規格外の「現役の小さな巨人」とネット越しに対峙した際、日向は自らの称号に固執することなく、「小さな巨人はあんたにあげる」「おれは最強の囮がいい」と心の中で宣言します。偶像との対面が日向を過去の呪縛から完全に解放した瞬間でした。