現代においてこの言葉がこれほどまでに人口に膾炙した決定的な元ネタは、吾峠呼世晴氏による漫画『鬼滅の刃』のクライマックス、無限城編における回想と戦闘描写です。
該当するエピソードは、原作単行本第20巻・第174話「赤い月夜に見た悪夢」に収録されています。十二鬼月の中で頂点に君臨する上弦の壱・黒死牟(こくしぼう)こと「継国巌勝(つぎくにみちかつ)」の前に、かつて戦国時代に袂を分かった双子の弟であり、作中最強の剣士「継国縁壱(つぎくによりいち)」がおよそ60年ぶりに姿を現します。
黒死牟は、人智を超えた強さと不老不死を求め、武士の誇りすら捨て去って鬼となり、何百年もの時を生き続けていました。一方の縁壱は、鬼狩りの剣士に現れる「痣の者が25歳未満で死ぬ」という絶対の宿命を覆し、80歳を超える老齢の剣士として兄の前に立ち塞がります。皺刻まれた老躯の弟を見下ろし、己の永劫の肉体との差を確信した黒死牟に対し、縁壱は静かに両目から大粒の涙を流しながら次の言葉を口にしました。
「おいたわしや 兄上」
この一言は、黒死牟の精神を根底から打ち砕く決定打となりました。黒死牟は弟を超えたい一心で人間性を捨て、永遠の命と武の極致を手に入れたつもりでいました。しかし弟の目に映っていたのは、誇り高き最強の武士ではなく、「鬼という醜悪な怪物に成り果ててまで生に執着する、憐れで惨めな兄の姿」に他ならなかったのです。