大阪府立近つ飛鳥博物館の最大の特徴は、建物全体が一つの巨大なコンクリート階段で覆われたような外観にあります。一見すると無機質なモニュメントのようにも映るこの形状には、敷地が持つ歴史的背景と深く呼応した必然的な理由が存在します。
博物館が建つ南河内地域は、6世紀から7世紀にかけて渡来人集団が定住し、飛鳥朝廷を支えた歴史の表舞台です。敷地を内包する「近つ飛鳥風土記の丘」には、102基もの横穴式石室を持つ「一須賀古墳群」が点在しています。安藤忠雄氏は設計にあたり、建物を大地から聳え立つ記念碑にするのではなく、「古墳を望む丘陵そのものと同化する建築」というコンセプトを打ち出しました。
屋上全体に広がる大階段は、来館者が登ることで周囲の古墳群や豊かな原生林を360度見渡す「展望の丘」として機能します。一方で、展示室へ向かう動線は、コンクリートのスリットから差し込むわずかな光を頼りに、大地の下へと深く潜り込んでいく構造となっています。この「闇へと降りていく体験」こそが、古代の横穴式石室、すなわち死者が眠る黄泉の世界へ足を踏み入れる感覚を追体験させる仕掛けです。第26回日本芸術大賞を受賞したこの造形美は、建築そのものが古代史の導入装置として機能している点において、世界的に高い評価を得ています。