時計の針を巻き戻せば、彼の物語は一編の壮大なサクセスストーリーとして始まった。ゲーム会社カプコンの大ヒットタイトル『鬼武者』の壮大なオーケストラサウンドを手掛け、一躍「全聾の天才作曲家」として脚光を浴びたことがブレイクの契機だった。耳が聞こえないという過酷なハンデを抱えながら、独力で重厚なクラシック音楽を生み出す姿は、当時のメディアにとって格好の美談だったのだ。
その旋風が絶頂に達したのが、『交響曲第1号 HIROSHIMA』の歴史的ヒットである。原爆被害への祈りと人間の再生を描いたとされるこのCDは、クラシック作品としては異例の10万枚を超え、社会現象へと発展した。だが、聴衆が感涙したその劇的なドラマの裏には、緻密に計算された虚構が隠されていた。