医療的介入を経て一度は対極の身体を獲得しながらも、再び元の性別や新たな自己認識へと引き返すプロセスを「デトランスジション」と呼ぶ。近年、この選択をする人々が欧米を中心に増加しており、学会や報道でも大きくクローズアップされている。
そもそも、当事者が抱いていた苦痛の根底にあったのは純粋な性別違和だけだったのか。精神医学の現場では、発達障害の特性や重度のトラウマ、解離性障害、あるいは抑うつ状態が「自分の性別に対する不快感」として表出していた可能性が指摘されている。精神医学的な丁寧な鑑別診断を行わずにホルモン投与を開始した場合、根本的な心の生きづらさは解消されず、かえって自己同一性の完全な崩壊を招く恐れがある。
かつて性別移行を経験し、後に自らの体験を発信したウォルト・ハイヤーのような人物は、性別を物理的に変えることだけではトラウマや心の傷は癒えないと警鐘を鳴らし続けてきた。心理的課題に向き合わないまま身体の改変を優先させた結果、身も心も行き場を失う悲劇が今なお生み出されている。