野村昭子さんの経歴を語る上で欠かせないのが、芸能界入りする前の意外なキャリアです。東京・神田の裕福な家庭に生まれた彼女は、戦時中に学業に励み、東京薬学専門学校(現・東京薬科大学)を卒業。実際に薬剤師の免許を取得し、国立東京第一病院(現・国立国際医療研究センター)の薬局に勤務していた経歴を持ちます。
しかし、「一度きりの人生、本当にやりたいことをやりたい」と一念発起し、1949年に名門・劇団俳優座の養成所に第3期生として入所。同期には愛川欽也氏などが名を連ねていました。知性派でありながら、あえて下町の世話焼き小母さんやコミカルな中年女性の役柄に活路を見出し、唯一無二のポジションを築き上げました。
私生活では2度の乳がんを経験。1988年に右胸、2004年には左胸にがんが見つかり、いずれも手術を受けました。当時の手記や取材では「病気を患ったことで、命のありがたみと、普段通りの暮らしができることへの感謝が骨身に染みた」と述懐しています。自身の弱さや老いを隠さず、淡々と日常を受け止める姿勢は、その後の味わい深い演技の源泉泉泉となっていきました。