物語の表層を覆うのは、一筋縄ではいかないスリリングな心理サスペンスの仕掛けだ。偽りの病を巡る疑惑、偽造された診断書、そして登場人物たちが抱える過去のトラウマ。観客は次々と提示される謎の罠にはまり、誰が本当のことを語っているのか最後まで見失うことになる。
しかし、単なる謎解きにとどまらないのが是枝裕和の手腕だ。サスペンスの骨格の底底には、悲哀に満ちた重厚なヒューマンドラマが太く通っている。なぜ男は嘘をつき続けなければならなかったのか。追い詰められた人間が見せる弱さと愛おしさが痛切に描かれ、観終わった後には深い余韻と人間の業に対する問いが残される。