見城氏の経歴を語る上で欠かせないのが、静岡県立清水南高校から慶應義塾大学法学部を経て歩んだ激動の編集者人生です。廣済堂出版を経て角川書店に入社した見城氏は、文芸誌『野性時代』副編集長、そして『月刊カドカワ』編集長として出版界に旋風を巻き起こしました。
つかこうへい氏、森瑤子氏、尾崎豊氏、吉本ばなな氏、北方謙三氏、村上龍氏といった当代一の表現者たちを、手紙を何十通も送り続ける情熱と「あなたと心中する」覚悟で口説き落とし、低迷していた雑誌を数十万部規模のモンスターメディアへと押し上げました。当時、角川書店の看板編集者として常務取締役にまで登り詰めながら、1993年に突然の退社・独立劇を迎えます。
その契機となったのが、当時の社長であった角川春樹氏の麻薬取締法違反容疑による逮捕と、それに伴う社内の派閥抗争でした。社内秩序の動揺と経営路線をめぐる衝突の末、見城氏は自ら築いた地位を捨て、石原正康氏ら腹心の編集者たちを伴って1993年11月に株式会社幻冬舎を設立しました。
1994年春、幻冬舎が放った「創業第1弾の単行本6点」は、出版界の伝説として今も語り継がれています。
- 五木寛之『不安の力』
- 村上龍『昭和歌謡大全集』
- 吉本ばなな『マリカのソファー/バリ夢日記』
- 北方謙三『約束の街』
- 山田詠美『120%COOL』
- 尾崎豊『黄昏ゆく街で』
この6作すべてがベストセラーランキングの上位を独占しました。資金も信用もない新興の小出版社が大手取次や書店を動かせた理由は、見城氏が徹底した「点数を絞り込み、1冊に全戦力を注ぎ込む集中突破戦略」をとったためです。大量出版・大量返本が常態化していた当時の出版業界において、初版から宣伝費と情熱を極限まで投じる手法は革命的でした。この「圧倒的当事者意識」こそが、幻冬舎を一大文芸・実用出版社へと押し上げた原動力です。