「振れば望むものが何でも湧き出る」とされる打ち出の小槌ですが、その原点は中世の説話や『御伽草子』に描かれた異界の道具に遡ります。平安時代末期から室町時代にかけて成立した物語群において、小槌は人界の外側、すなわち鬼や妖怪が棲む異界の秘宝として登場しました。
当時の民間信仰では、異形の存在である「鬼」は恐ろしい災厄をもたらす一方で、人知を超えた圧倒的な富や力を保持する存在としても捉えられていました。鬼が持つ小槌を人間が知恵と勇気で奪取する展開は、「厄災を転じて福となす」という劇的な転換を象徴しています。恐怖の対象が持つ呪具を調伏し、福を呼ぶ神聖な道具へと再解釈していく過程こそ、日本の民間伝承が持つダイナミズムといえます。