「しばらくしたら音が止まったから、外へ逃げていったのだろう」「痛みが引いたから大丈夫」と自己判断し、受診せずに放置することは極めて危険です。音がしなくなった理由は、虫が出ていったからではなく、耳の奥で虫が息絶えて死骸となっただけというケースが臨床上非常に多く見られます。
耳の中に虫を放置するリスクは、時間の経過とともに加速度的に増大します。耳の穴は体温で36度前後に保たれ、適度な湿気があるため、細菌やカビ(真菌)が繁殖する絶好の培養器となります。死骸を放置すると数日以内に腐敗が始まり、外耳道全体に猛烈な悪臭を伴うびらんや潰瘍が広がる重症外耳道炎を引き起こします。
さらに恐ろしいのは、昆虫の微小な足、トゲ、羽の破片、あるいは虫に寄生していたダニや病原菌が耳の中に残留することです。異物反応によって肉芽組織が形成され、難聴や耳鳴りが慢性化するだけでなく、鼓膜に穴が開いたまま中耳へと感染が波及する「化膿性中耳炎」や、骨を破壊していく「真珠腫性中耳炎」の引き金になることすらあります。「痛みや音が消えたから解決した」と思い込まず、虫が確実に出てきた現場を目撃していない限り、必ず専門医のスコープで耳腔内を確認しなければなりません。