植物が果実を実らせる本来のプロセスでは、めしべに花粉が付着する「受粉」が起点となります。受精が成立すると幼い種子(胚珠)が形成され、その種子から自発的に植物ホルモンの一種であるジベレリンが分泌されます。このホルモンの刺激がシグナルとなって周囲の子房組織に細胞分裂と肥大を命じ、次第にみずみずしい果肉へと成長していくのが自然界の摂理です。
ぶどうを人工的に種無しにする技術は、この植物生理を逆手に取ったものです。花が咲く前、あるいは開花直後のタイミングで人為的にジベレリン水溶液を房へ浸漬させると、受粉・受精が行われていないにもかかわらず、樹体は「すでに受精が完了して種子ができた」と認識します。この生体反応により、めしべの花粉管伸長や受精プロセスそのものが阻害され、種子の形成が停止します。
種が形成されない状態のまま果肉だけが肥大・成熟していくこの現象は、生物学用語で単為結果(たんいけっか)と呼ばれます。つまり、種無しぶどうとは薬品によって種を化学的に溶かして消滅させているのではなく、「種が作られる生殖プロセスそのものをスキップさせ、果肉のみを急速に太らせる技術」によって誕生しているのです。