「へっつい」という言葉を辞書で引くと、第一義には「煮炊きをするための設備、すなわち、かまど」と記されています。しかし、その語源を遡ると、極めて古い信仰と日本語の変遷に行き当たります。
国語学および民俗学の通説において、「へっつい」は「竈(へ)つ霊(ひ)」、あるいは「竈(へ)つ火(ひ)」が音変化したものとされています。古代日本語において「へ」はかまどそのものを意味し、そこに宿る霊的な力や火そのものを「へつひ」と呼んで崇めました。この神聖な火霊を指す言葉が、時代を経るにつれて調理設備そのものを指す名詞へと変化し、「へつい」、さらには促音化して「へっつい」へと定着していった経緯があります。
平安中期の随筆『枕草子』(能因本・九二段)には、「内膳、御へつい渡し奉りなどしたる」という記述が見られます。宮中の食事を司る内膳司において、神聖な儀礼や日常の調理設備として「へつい」が扱われていた事実を示す証拠です。さらに1603年にイエズス会が編纂した『日葡辞書』にも、「Fezzui(へっつい)」として「かまど」の対訳が明確に記録されており、中世から近世にかけて口頭語として広く定着していた実態が裏付けられています。
漢字表記については、一般的に「竈」「竃」の文字がそのまま当てられます。文献によっては中国の古典語に倣い「竈突(へっつい)」と宛字されるケースも見られますが、基本的には「かまど」と同じ漢字を用い、読み分けとして「へっつい」と読ませるのが通例です。