割引率のわずか数パーセントの差が、数十年後の政策評価をどのように左右するのか。数式で見るとその差は驚異的です。割引率を $r$、経過年数を $t$ 年とすると、将来価値($FV$)を現在価値($PV$)に直す計算方法は以下の式で表されます。
現在価値(PV) = 将来価値(FV) ÷ (1 + r)t
仮に「50年後に100億円の防災便益(または被害防止効果)」が生じる事業を想定してみましょう。社会的割引率が4%の場合、50年後の100億円は $(1 + 0.04)^{50} \fallingdotseq 7.1$ で割られ、現在価値に換算するとわずか約14億円まで目減りします。ところが、割引率を1%に設定すると、$(1 + 0.01)^{50} \fallingdotseq 1.64$ となり、約61億円の価値として評価されるのです。実に4倍以上の開きが生じます。
この差が直撃するのが、橋梁やトンネルの維持管理LCC(ライフサイクルコスト)です。施設を長寿命化するために「今、多額の予算を投じて予防保全工事を行う」か、「傷んでから対症療法で修繕するか」を比較検討する際、割引率が4%だと「30年後にかかる巨額の更新費用」が現在価値では小さく見えてしまいます。結果として「今コストをかけて予防するより、未来に先送りした方が経済的に合理的」という致命的な本末転倒が起きる構造を生んでいたのです。