水辺で遭遇した生物がカピバラなのかヌートリアなのか、あるいはビーバーなのかという疑問に対し、最も明快な答えを提示するのが「尻尾の形状」です。この一点を確認するだけで、専門知識がなくても瞬時に判別がつきます。
水路を泳いでいる際や陸に上がった姿を観察すると、ヌートリアの尻尾は30〜40cmほどの長さがあり、断面が丸いドブネズミのような形状をしています。泳ぐ際にはこの長い尻尾が水面後方に細長く揺れるため、遠目からでも明らかなネズミ特有のシルエットを描きます。一方、カピバラには外見上確認できるような長い尻尾は存在せず、わずかに痕跡的な突起があるのみです。川岸で丸みを帯びた大きな臀部を見せ、長い尾が見当たらなければカピバラの形態に近いといえますが、日本の自然河川にカピバラが野生化している事例は動物園からの脱走等の極めて特殊なケースを除き存在しません。
もうひとつの決定的な身体的特徴が、口元から覗く「前歯(門歯)の色」です。ヌートリアの成体は、上下の門歯がエナメル質に含まれる高濃度の鉄分によって鮮烈なオレンジ色(橙色)に染まっています。威嚇時や草を食む際にチラリと覗く鮮やかなオレンジ色の牙は、ヌートリアを識別する最も象徴的なサインです。これに対し、カピバラの前歯は白から淡い黄色みを帯びる程度であり、ヌートリアのような人工着色を思わせる鮮烈なオレンジにはなりません。
さらに、決定打となるのが体格の圧倒的なスケール差です。現場で単体を見上げるとヌートリアも「巨大なネズミ」として恐怖感を覚えるほどの威圧感がありますが、大型犬に匹敵するカピバラとは体重比で5倍から8倍もの開きがあります。遠近感の錯覚によって川の中のヌートリアが巨大に見える現象が、ネット上で「カピバラ発見」と誤認される最大の要因となっています。