ネット上のQ&AサイトやSNSで「思春期早発症 手遅れ」と検索すると、「初潮が来たらもう伸びない」「声変わりしたら治療できない」といった極端な言説が溢れています。しかし、日本小児内分泌学会の臨床指標に照らし合わせると、手遅れかどうかの本質的な分水嶺は、暦年齢(実際の生年月日による年齢)でも初経・変声の有無そのものでもなく、「骨年齢(骨の成熟度)」がどこまで進んでいるかにあります。
子どもの身長が伸びるのは、手足の長い骨の端にある軟骨組織「骨端線(こったんせん)」で新しい骨が作られるためです。思春期に入ると分泌される性ホルモン(エストロゲンやテストステロン)は、一時的に身長の伸びを爆発的に加速(成長スパート)させますが、同時に骨端線を急速に固めて閉鎖させる作用を併せ持ちます。思春期が早く始まってしまうと、この骨端線の閉鎖が前倒しで進み、同級生がグングン伸びる中学生・高校生の頃には成長が完全にストップしてしまうのです。
小児内分泌医療の現場において、思春期を一時的にストップさせる標準治療薬「GnRHアゴニスト(リュープロレリン酢酸塩=商品名リュープリンなど)」の効果が期待できる限界ラインは、一般に骨年齢が女子で12歳半〜13歳未満、男子で13歳半〜14歳未満とされています。この境界線を超えて骨端線がほぼ閉鎖(癒合)に向かっている段階で性ホルモンを薬で抑えても、身長を伸ばす作用は得られず、かえって成長速度を急激に落としてしまう逆効果を招くためです。
「手遅れかもしれない」という恐怖の正体は、まさにこの骨端線の閉鎖限界にあります。裏を返せば、たとえ初経が発来していたり声変わりが始まっていたりしても、左手のレントゲン撮影によって骨端線にまだ十分な隙間が確認できれば、医学的にアプローチできる余地は残されています。