「阿修羅は決して、前だけを見ているわけではない」。今回の分析を担当した文化財科学の研究チームは、そう指摘する。
大型高精度CTスキャナが捉えた三つの顔の内部粘土の削り跡は、仏師が造形段階で何度も顔の角度と目線の焦点を微修正していた痕跡を克明に物語る。向かって左側の顔には激しい後悔と唇を噛みしめるような緊張感が走り、右側の顔にはどこか諦念と葛藤が漂う。そして正面の顔。ここでは二つの相反する感情が交差し、絶妙な「静寂」へと昇華されている。見る角度や光源の光量によって表情が刻々と変化して見える現象は、当時の技術者が意図的に仕掛けた光学的な仕掛けだったのだ。