抜苦与楽の読み方と意味を正しく紐解くと、この四字熟語が極めて論理的かつ段階的な構造を持っている事実が浮かび上がります。読みは「ばっくよらく」。字義通り「苦を抜き、楽を与える」ことを指し、仏教における「慈悲(じひ)」という概念の核心を言語化した言葉です。
仏教学における定説として、「慈」と「悲」は明確に役割が分かれています。古代インドのサンスクリット語において、「慈」はmaitrī(マイトリー:友愛・親愛から生じる幸福の付与=与楽)を指し、「悲」はkaruṇā(カルナー:他者の苦悶に胸を痛め、それを取り去る情動=抜苦)を意味します。つまり、四字熟語としての抜苦与楽は、この「慈」と「悲」の働きをワンセットで表現したものです。
ここで見落としてはならない順序があります。仏教の教理では、必ず「与楽」の前に「抜苦」が置かれます。足に刺さった棘を抜かないまま甘い菓子を与えても人が心からの安らぎを得られないように、まず苦痛や不安の根本原因を除去(抜苦)した上で、初めて真の幸福や安心を届ける(与楽)という実践的アプローチが、この言葉の根底に流れています。