映画の終盤、人工衛星「あらわし」の時計台直撃を阻止するため、健二が全精力を傾けてパスコードを入力する場面。彼が叫んだ言葉は、ヒーロー然とした決め台詞ではなく、極めて日常的な「よろしくお願いしまぁぁぁす!」でした。
このセリフが生まれた背景には、細田守監督の卓越した人間描写があります。小磯健二は特殊な戦闘能力を持ったスーパーヒーローではなく、内気で数学だけが得意なごく普通の高校生です。世界の破滅を前にして彼がとった行動は、陣内家の人々が繋いでくれた想いと回線を信じ、自分にできる唯一のこと(計算)をやり遂げ、その結果を神や世界、そして未来へ「託す」ことでした。
脚本を手掛けた奥寺佐渡子氏と細田監督は、健二の素朴な人柄と極限状態の緊迫感を融合させる言葉として、あえて敬語の叫びを選択しました。結果として、伸ばされた母音「ぁぁぁす!」の絶叫が、観客の感情を一気に爆発させる映画史に残るカタルシスを生み出したのです。