歳時記には、晩冬から初春への移行期を表す似た季語がいくつか存在します。それぞれのニュアンスを比較すると、言葉選びの奥行きがより鮮明になります。
まず「春近し(はるちかし)」は、時間的な経過に焦点を当てた言葉です。カレンダーや日数の推移として「春がもうすぐそこまで迫っている」という客観的な事実を含んだ表現になります。
次に「待春(たいしゅん/はるまつ)」は、人の心理・感情に重きを置いた季語です。「早く暖かくなってほしい」「春が待ち遠しい」という主観的な憧れや期待感が前面に出ます。
これらに対し「春隣(はるとなり)」は、空気感や空間の気配を捉えた共感覚的な表現です。情緒的でありながらどこか静けさと温かみを兼ね備えている点が際立っています。また、動詞化した「春隣る(はるとのる/はるとなる)」という表現もあり、「日差しが春隣る」「風の音がかすかに春隣る」といった形で、季節が移ろう動きそのものを描写する際にも用いられます。