きらびやかな大会を観戦する多くの人が真っ先に抱く疑問が、「なぜフィギュアスケートの衣装はあそこまで高額なのか」という点です。ジュニアやシニアの公式戦でトップ選手が着用するコスチュームは、1着あたり30万円から80万円、素材や装飾に極限までこだわった最高峰のフルオーダーでは100万円以上に達することも珍しくありません。
フィギュアスケート衣装の値段相場を押し上げる最大の要因は、徹底したオートクチュール(特注仕立て)の工程と、惜しみなく投入される高級素材にあります。衣装には4方向へ自在に伸縮する高密度ツーウェイストレッチ生地や極薄のパワーネットが何層も重ねられ、スケーティングの激しい動きを妨げないミリ単位の立体裁断が施されます。さらに、氷上で光を反射して立体的な輝きを生み出すため、数千個から多いときには1万個を超えるクリスタルガラスやスワロフスキーが、デザイナーや職人の手によって1粒ずつ手作業で熱接着・縫い付けられているのです。
日本のトップスケーターたちから絶大な信頼を寄せるフィギュアスケート衣装デザイナー有名の筆頭である伊藤聡美氏は、自著やメディアのインタビューにおいて「衣装は選手の戦闘服であり、プログラムの世界観を具現化する視覚的スコアである」と語っています。伊藤氏をはじめとするトップデザイナーのアトリエでは、選手の骨格や筋力、選曲、振付師の意図、さらにはリンクの照明の当たり方に至るまで綿密に計算し尽くしてデザインを構築します。単なる服ではなく、過酷な遠心力や汗、ジャンプの着氷衝撃に耐えうる「精密機器」のような構造を持っているからこそ、その対価として高額な製作費が発生する構造となっています。