音楽ファンの間でまことしやかに囁かれる「視聴率稼ぎのために意図的にタイムテーブルを隠しているのではないか」という憶測には、半分正解でありながら、半分はテレビ演出の力学を見落とした誤解が含まれています。
第一の誤解は、「タイムテーブルは数日前には完全に固まっているはずだ」という思い込みです。実際には、当日のリハーサルにおける各アーティストの動線確認や、生中継先との天候・回線テストの結果を受け、プロデューサー陣は本番直前まで曲順の秒単位の入れ替えを行っています。特に大型生放送では、アーティストの体調や喉のコンディションに合わせた急遽の順番変更、機材トラブルによるバックアップ案への切り替えが日常茶飯事です。詳細すぎる分単位スケジュールを事前公開してしまうと、不可抗力の遅延が発生した際に現場が硬直化し、結果としてパフォーマンスの質を落としかねません。
第二の構造的理由は、テレビメディア特有の「セレンディピティ(偶然の出会い)の創出」です。タイムパフォーマンス(タイパ)が叫ばれる現在、もし全アーティストの歌唱時間が秒単位で判明していれば、視聴者は特定アーティストの数分間だけチャンネルを合わせ、即座に離脱してしまいます。制作陣が1時間単位の大括りなブロック発表に留めるのは、お目当てのアーティストを待つ間に「たまたま耳にした他ジャンルの楽曲や新進気鋭の若手のステージに心奪われる」という、音楽番組が本来持つべき最大の文化的役割を担保するためでもあるのです。