本作の物語は、東京近郊の多摩川沿いに建つ一軒家で暮らす田島家を中心に展開します。商社に勤める堅実な夫・則之(杉浦直樹)、優しく貞淑な妻・八千代(八千草薫)、名門私立大学に通う長女・律子(中田喜子)、そして大学受験を控えた浪人生の長男・繁(国広富之)。一見すると誰もが羨む絵に描いたような幸福な中流家庭でした。
しかし、その内情は砂上の楼閣に過ぎませんでした。八千代は見知らぬ男・北川(竹脇無我)からの不可解な電話をきっかけに、心の隙間を埋めるように禁断の密会を重ねていきます。夫の則之は家庭に無関心なばかりか、東南アジアへのいかがわしい買春ツアーの斡旋という裏の仕事に手を染めていました。長女の律子はアメリカ人男性との関係に溺れた末に手酷い裏切りに遭い、予期せぬ妊娠と中絶という深い傷を負います。長男の繁だけが母の不審な行動に気づき、家族への疑惑と不信感に苛まれながら受験勉強の手を止めて家庭内を彷徨っていました。
誰一人として本音を語り合わず、互いに嘘を塗り重ねて維持されていた家庭の均衡は、物語の終盤にかけて完全に決裂へと向かいます。母の不倫が明るみに出たことで怒号が飛び交い、仮面を剥ぎ取られた家族の対話は泥沼化。それぞれの孤立が決定定的となったその瞬間、運命を狂わせる激しい豪雨が関東地方を直撃します。
最終回で描かれたのは、1974年9月に発生した台風16号に伴う多摩川の堤防決壊でした。濁流は堤防を無慈悲に削り取り、田島家が誇りにしてきた郊外のマイホームへと容赦なく迫ります。パニックに陥る住民たちの中で、田島家の人々は必死に家財道具を運び出そうと奔走しますが、激流の前には人間の営みなど無力でした。
自慢のマイホームが轟音とともに崩れ落ち、濁流へと呑み込まれていく絶体絶命の瞬間、家族が土壇場で手元に残したのは、高価な調度品でも権利書でもなく、かつて家族が心を通わせていた頃の記憶が収められた「一冊のアルバム」だけでした。家という物質的象徴をすべて失い、泥まみれになりながら堤防の上に佇む4人。形骸化していた家族の殻が物理的に破壊されたことで、彼らは初めて嘘のない丸裸の人間として向き合い、静かに歩き出すという鮮烈な再出発で幕を閉じます。