ソーシャルメディアやネット掲示板では、日本人メジャーリーガーに関する誤った言説やセンセーショナルな誇張が後を絶ちません。現場の取材事実に基づき、代表的な2つの誤解を正します。
誤解1:「年俸数十億円=手取りも同等」という幻想
「年俸50億円なら一生遊んで暮らせる」といった単純な見方は、過酷な税制構造を無視しています。カリフォルニア州やニューヨーク州など税率の高い地域に本拠地を置く球団の場合、連邦所得税(最高税率37%)に加え、州所得税(カリフォルニア州では約13.3%)、さらに遠征先の各州で課される「Jock Tax(アスリート税)」が徴収されます。これに代理人(エージェント)報酬(通常契約の3〜5%)や専属トレーナー・通訳の雇用費、選手会年金基金への拠出を差し引くと、選手の手元に残る実質的な手取り額面は総年俸の約40〜45%程度にとどまります。
誤解2:「ピッチクロック導入で選手の負担が減った」という誤認
試合時間短縮を目的とした「ピッチクロック(投球間隔制限)」の導入以降、投手の肘や肩の故障が相次いでいます。投球間のリカバリー時間が削られた状態で球速95マイル(約153km/h)以上の剛速球や激しい変化球を投げ続けることは、生体力学(バイオメカニクス)的に靭帯への負荷を指数関数的に増加させます。日本人投手がメジャー挑戦後にトミー・ジョン手術を余儀なくされる背景には、単なる登板過多だけでなく、MLB特有の「重く滑る公式球」と「呼吸を整える暇のない投球テンポ」の複合的ストレスが存在します。