「あまりの痛みに耐えかねて、自宅にあった裁縫針をライターで炙り、腫れた部分を刺して膿を絞り出した」――医療機関を受診した患者の問診票や、SNS・掲示板の相談事例では、このような凄惨な告白が日常茶飯事のように見受けられます。一時的に内圧が下がって痛みが引いたように錯覚するケースもありますが、日本皮膚科学会の専門医らは口を揃えてこの行為に警鐘を鳴らしています。
家庭用の針や爪切りは、火炎滅菌したつもりでも完全な無菌状態を作ることは極めて困難です。さらに恐ろしいのは、針を刺す深さや角度を誤ることで、病巣を覆っていたバリア組織を自ら破壊し、細菌を皮下組織深部の腱鞘や骨膜へと押し込んでしまう点にあります。ネット上では「足の親指の膿を自分で出すとスッキリする」という民間伝承が散見されますが、これは医学的には感染範囲を自ら広げる自傷行為に等しいと言わざるを得ません。
不十分な自己排膿や放置が招く最悪のシナリオが、皮膚深層から皮下脂肪組織にかけて広範囲に細菌が広がる「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」です。足の甲やすねまで赤く腫れ上がり、38度以上の高熱や悪寒を伴う全身症状へと発展した場合、通院治療では追いつかず、1〜2週間の緊急入院と点滴治療が必要となるケースも実臨床では珍しくありません。自己判断による処置は、わずか数日の痛みを逃れる代償として、あまりにも重い医療リスクと金銭的負担を背負い込む結果となります。