ドーヴィル競馬場の名物といえば、一切のコーナーが存在しない完全な直線1600メートルコースだ。一見すると平坦で走りやすそうに思える。しかし、現地の騎手たちが口を揃えて語るのは「ラスト200メートルの恐ろしさ」である。
ノルマンディーの爽やかな風は、時として強い向かい風となって騎手と馬の体力を削り取る。日本の高速馬場に慣れ親しんだ馬にとって、深く密度の高い洋芝は足元にまとわりつく粘土のようだ。序盤で調子に乗ってペースを上げすぎれば、最後の100メートルで脚色が完全に鈍ってしまう。終盤までいかに脚を溜め、どのタイミングで追い出すか。騎手の仕掛けの呼吸ひとつで、着順がガラリと入れ替わるスリリングな戦いが展開される。