ウェブ上の言説やシニア層の口コミで根強く拡散されているのが、「前立腺がんはタートル(亀)がんとも呼ばれ、進行が遅いから治療しなくても天寿を全うできる」という極端な楽観論です。
確かに、高齢者で見つかる前立腺がんの中には、悪性度(グリーソンスコア)が非常に低く、命に影響を与えない「ラテントがん(潜在がん)」が存在します。医学的にも、リスクが極めて低いと診断された場合には、直ちに手術や放射線を行わず定期検査で厳重に経過を追う「監視療法(アクティブ・サーベイランス)」が正当な選択肢として認められています。
しかし、すべての前立腺がんがのんびりと進むわけではありません。病理検査でグリーソンスコアが「8〜10」と判定される高悪性度のがんは、驚くべきスピードで周囲の被膜を破り、リンパ節や骨へ転移を広げます。また、神経内分泌分化を伴う特殊ながんや、遺伝子修復異常を伴うタイプは、従来のホルモン療法が短期間で効かなくなる(去勢抵抗性前立腺がん)難治性の経過をたどります。「前立腺がんだから放置しても大丈夫」という乱暴な一般化は、自らの命を危険に晒す危険な誤認です。