「うちがやっているのは、奇をてらったフュージョン料理ではありません。失われつつある日本茶本来の力強さを、現代の日本料理という器に注ぎ直しているだけです」
取材に対し、森山店主は穏やかな口調でそう語った。店主は自ら各地の茶畑へ足を運ぶ「日本茶紀行プロジェクト」を主宰しており、静岡の山間地や京都・宇治、鹿児島・知覧の契約農家と直接対話を重ねてきた。日照時間や土壌の質、摘み取りのタイミングまで自ら指定した特注の茶葉しか厨房に持ち込まない。
「農家さんが魂を削って育てた茶葉が、安易な大量消費で埋もれていく現状をなんとかしたかった。一席数万円のコースであっても、その背景にある産地の息吹を感じてもらえれば、茶業全体を潤す循環が生まれます」。料理人の情熱は、すでに一店舗の枠組みを飛び越え、疲弊する一次産業の救世主としての役割をも帯び始めている。