ジブリの大倉庫内における『千と千尋の神隠し』の見どころは、単なるパネル展示の域を遥かに凌駕している。スタジオジブリの職人技と美術制作への執念が結実した2大ハイライトが、来場者を作品の世界へと引きずり込む。
最大の目玉は、企画展示「ジブリのなりきり名場面展」内に鎮座する海原電鉄の電車内を再現した空間だ。映画のクライマックス、静かに水面を走る列車の中で千尋がカオナシと並んで座る名シーンを、実物大のスケールで体感できる。ベルベット調の赤い座席に腰を下ろすカオナシの横にはちょうど1人分のスペースが空けられており、来場者は千尋と同じように並んで座り、カオナシフォトスポットとして記念撮影を行うことができる。車窓から流れる風景のニュアンス、車内のどこか哀愁漂う空気感までもが精密に設計されており、ただシャッターを切るだけでなく、物語の登場人物になったかのような静謐な没入感を味わえる。
もうひとつの圧倒的な見どころが、大倉庫の回廊奥に位置する湯婆婆にせの館長室である。ガラス張りの巨大なオフィスを覗き込むと、そこには映画からそのまま抜け出してきたかのような巨大な湯婆婆が執務机に向かい、契約書に激しい筆致でサインを走らせている姿が広がる。机上に散乱する契約書には、劇中で名前を奪われた登場人物たちの文字が克明に刻まれており、床に散らばるきらびやかな宝石類、傍らで不気味に佇む三つの緑色の「頭(かしら)」など、美術工芸品としての完成度は息をのむほど高い。魔女としての威圧感と精緻な造形美は、大人から子どもまで思わず足を止めて見入ってしまう迫力を誇る。
さらに、大倉庫のエントランス付近や屋外の小道にも、千尋たちが迷い込むきっかけとなった「不思議な石人」がひっそりと佇んでいるなど、熱心なファンほど気づく細やかな仕掛けが散りばめられている。