映画『レインマン』のモデルとして世界的に知られたキム・ピーク(Kim Peek)氏は、生涯で1万2,000冊以上の本をほぼ一字一句暗記し、左右の目で別々のページを同時に読む驚異的な能力を有していました。彼の手記や関係者の証言によると、脳の左右を繋ぐ「脳梁(のうりょう)」が生まれつき欠損しており、左右の半球が独立して機能していたことが判明しています。
英国の画家スティーブン・ウィルシャー(Stephen Wiltshire)氏は、ヘリコプターでロンドンやニューヨークの上空をわずか十数分遊覧しただけで、ビルの窓の数に至るまで完全に記憶し、巨大なパノラマキャンバスに精密な街並みを描き切ることで国際的な評価を得ています。
日本国内においても、陶芸や絵画、音楽の分野で特異な才能を開花させている当事者が複数存在します。緻密な点描画や幾何学的な曼荼羅アートを一切の下書きなしで描き出すアーティストや、数千曲のクラシックレパートリーを聴覚のみで習得した盲目のピアニストなどがメディアでも紹介され、作品展やコンサートは高い評価を集めています。
しかし、当事者やその支援家族への取材データが浮き彫りにするのは、華やかなスポットライトの裏側にある日常生活の著しい困難です。自著や手記で語られる生の声には、以下のような切実な現実が刻まれています。
「円周率を何千桁も暗唱できても、1人で靴紐を結ぶことや電車の切符を買うことができない」「街の微細な光や音が一斉に情報として脳に雪崩れ込み、激しいパニックと疲労に襲われる」という感覚過敏の苦しみです。突出した才能だけを切り取って称賛するのではなく、生活面でのサポートと一体で理解することが不可欠です。