日本に初めてペストが侵入したのは、1899年(明治32年)秋のことでした。当時、中国南部や台湾で猛威を振るっていたペスト菌が、国際貿易船の積荷や船内に潜んでいたクマネズミ、そしてネズミに寄生するケオプスネズミノミを介して、神戸港や広島・大阪へと持ち込まれました。
なぜ明治期の日本で急速に感染が拡大したのか。その背景には、開国に伴う急速な海上輸送の活発化と、当時の木造長屋を中心とした都市部の住宅環境がありました。下水道などの都市インフラが未成熟だった当時の市街地は、ネズミにとって格好の繁殖環境であり、ネズミとノミを媒介とするペストの感染経路が瞬く間に成立してしまったのです。
1899年から大正末期までの約30年間にわたり、散発的な流行が繰り返され、国内の累積患者数は2,905人、死者数は2,420人(致死率約83%)に達しました。