群馬県の奥深い渓流沿いに位置する四万温泉「積善館」。元禄4年(1691年)に建てられた日本最古の木造湯治宿として知られるこの宿は、訪れる者を一瞬で異界へと誘う。本館へと続く赤い「慶雲橋」の前に立てば、千尋が息を止めて橋を渡ったあの切迫した名シーンが鮮烈に蘇るはずだ。
昭和初期に建てられた「元禄の湯」は、アーチ型の窓から差し込む自然光と床に並ぶタイル張りの浴槽が印象的で、どこか大正ロマンの哀愁を漂わせる。本館と山荘を結ぶ薄暗いトンネルのような連絡通路を歩くとき、観客は自分が日常から異世界へと迷い込んだような不思議な感覚を味わう。歴史を刻み続ける湯治文化の静謐さが、物語の持つ神秘性をそのまま体現している。