なぜスタジオジブリと宮崎駿監督は、一人の声優に主役級の二役を任せるという異例の決断を下したのでしょうか。その背景には、制作現場における緊迫したキャスティングの経緯がありました。
当時の制作資料やインタビュー記録によると、高山みなみさんは当初、ウルスラ役のオーディションを受けて正式に合格していました。一方で、物語の命運を握る主人公キキ役の選考は難航を極め、イメージに合致するキャストがなかなか見つからない事態に陥っていたのです。
そこで音響制作サイドからの提案により、すでにウルスラ役に決まっていた高山さんがキキのセリフをテスト収録したところ、宮崎駿監督の琴線に強く触れることとなりました。純真でひたむき、かつ思春期の影を併せ持つ高山さんの芝居は、監督が求めていたキキの人物像そのものだったのです。
「ウルスラ役を別の声優に振り直すか」という議論も交わされましたが、高山さんのウルスラとしての完成度があまりに高かったため、宮崎監督は「キキもウルスラも、両方とも高山さんにお願いしよう」と英断。こうして、日本アニメ史に残る見事な一人二役が誕生しました。