クラシック音楽の世界で「三大アヴェ・マリア」と称されるのは、フランツ・シューベルト、シャルル・グノー、そしてジュリオ・カッチーニの3人による作品です。同じタイトルを冠しているため「どれも聖母マリアを称える同じ賛美歌だろう」と誤解されがちですが、それぞれの成立過程と歌詞のアプローチは対照的です。
まず、キリスト教カトリックの典礼で用いられる標準的な祈祷文「天使祝詞(ラテン語:Ave Maria)」をそのまま歌詞として採用しているのはグノーのみです。バッハが遺したプレリュードのコード進行に、敬虔な信仰の祈りを乗せて誕生しました。
対照的にシューベルトの作品は、純粋な宗教曲としてではなく世俗の歌曲として作られました。また、カッチーニ作として親しまれる名曲に至っては、ルネサンス・バロック期の巨匠の名を借りて20世紀の旧ソビエト連邦で密かに生み出された楽曲です。このように、作曲された時代、意図、原語の構造が三者三様である点こそが、アヴェ・マリアという名曲群の奥深い魅力といえます。