『ハウルの動く城』の物語において、すべての運命の歯車を狂わせ、同時に動かし始めた原点がハウルとカルシファーの命の契約です。作中で描かれる「星の子」の正体は、天界の運行から外れて地上へ墜落してきた「流れ星(fallen star)の生命体」にほかなりません。
魔術の世界において、流れ星は地上に激突した瞬間、その命の光を失って死に絶える運命にあります。スタジオジブリの公式制作資料や宮崎駿監督の解説によると、少年時代のハウルは、目の前で儚く消えゆこうとする星の子に強い哀れみを抱きました。そこで彼は、自らの温かい生体エネルギーである「心臓」を星の子に与えることで、その消滅を食い止めたのです。
しかし、人知を超えた自然の精霊に人間の肉体の一部を融合させる行為は、禁忌の魔術儀式そのものでした。ハウルの心臓を取り込んだ星の子は、死を免れる代わりに強大な魔力を宿す「火の悪魔カルシファー」へと変質を遂げます。これにより、「ハウルは悪魔の魔力を使って偉大な魔法使いになれるが、心臓をカルシファーに預けているため命を共有する」「カルシファーはハウルの心臓の炎で生き永らえるが、暖炉の火から自由に出られない」という、互いの生殺与奪の権を握り合う共依存の契約が成立したのです。