ネット上の掲示板やSNSでは長年、「ペニーワイズのモデルは、実在したアメリカの連続殺人鬼ジョン・ウェイン・ゲイシーである」という説が定説のように語られています。ゲイシーは1970年代に少年ら33名を殺害し、普段は慈善活動として「ポゴ」という名のピエロに扮していたことから「キラー・クラウン(殺人道化師)」と呼ばれた実在のシリアルキラーです。
しかし、原作者スティーヴン・キング本人が公の場で語った回顧録や公式発言によると、この噂は後付けで広まった誤解であることが分かります。キングが『IT』の着想を得たのは1978年、人里離れた夜の橋を一人で渡っていた際、木製の橋板がギシギシと鳴る音を聞き、童話『三びきのやぎのがらがらどん』に登場する「橋の下に潜む凶暴なトロル」を思い出した瞬間でした。
「もし現代社会において、橋の下ではなく街の地下に怪物が潜んでいるとしたら何だろうか?」と考えたキングは、子供たちが世界で最も魅了され、かつ本能的に最も恐れる存在は何であるかを自問しました。その結論が「サーカスのピエロ」だったのです。もちろん、当時アメリカ社会を震撼させていたゲイシー事件のニュースが潜在的な影響を与えた可能性は否定できないものの、「ゲイシーを直接の題材として描いた」という言説は事実無根の都市伝説に過ぎません。
また、物語のクライマックスにおける「なぜピエロの真の姿が巨大なクモなのか」という点についても、多くの映画ファンが疑問を抱くポイントです。映画『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』のネタバレに触れると、ITの本当の実体は三次元の物理空間には存在しない、眩い破壊的光のエネルギー「デッドライト(死の光)」です。人間の脆弱な脳ではその超次元的な実体を認識することができず、脳が耐えきれる極限の恐怖の形として翻訳された結果が、あの「巨大なクモに似た異形の姿」なのです。決してピエロが単なる虫の化け物だったというわけではありません。