20代半ばまで、映像の世界では全くの無名に等しかった堺雅人。転機への足がかりとなったのは、意外にもアニメの声優オーディションでした。1996年から1997年にかけて放送された人気アニメ『こちら葛飾区亀有公園前派出所』で、セレブ警官・白鳥麗次役の声を担当。持ち前の端正な美声と卓越したリズム感を武器に、声優としても一定の評価を獲得します。
そして実写映像の世界で全国区の知名度を得るきっかけとなったのが、2000年下期のNHK連続テレビ小説『オードリー』です。ヒロインの映画制作に関わる助監督・杉本英記役を演じた堺雅人は、素朴ながら芯の強い青年像を好演。朝の茶の間に「あの爽やかな俳優は誰なのか」と鮮烈な印象を植え付けました。
その実力を決定的なものとし、役者・堺雅人の代名詞を世に刻み込んだのが、2004年のNHK大河ドラマ『新選組!』(三谷幸喜脚本)における山南敬助役です。
新選組総長として組織の歪みに苦悩しながらも、常に柔らかな笑みを絶やさず、最後は隊規に従って切腹を遂げる山南敬助。第33回「山南脱走」から第34回「寺子屋」における凄惨かつ美しい最期は、視聴者に強烈な衝撃を与え、放送後には「山南ロス」と呼ばれる社会現象が巻き起こりました。激しい怒りや深い悲哀をすべて「優美な微笑み」の裏側に閉じ込めるという、堺雅人独自の演技メソードが完成した歴史的瞬間でした。