和英辞典を引くと真っ先に出てくる「concubine」という語。ラテン語の「共に寝る」を語源に持つこの言葉は、歴史的・法的な背景を含んだ厳密な表現だ。しかし、現代英語の日常感覚においては、やや生々しく、あるいは前時代的な蔑称に近い響きを帯びることがある。
一筋縄ではいかないのが、日本語の「妾」「側室」「愛人」が持つ絶妙な社会的距離感の差だ。たとえば、家督相続のために公式に認められた「側室」を単に「concubine」と訳すと、西洋の読者は「正妻の陰に隠れた不貞の相手」という誤った先入観を持ちやすい。こうした誤解を防ぐため、現代のプロ翻訳者は文脈に応じて「secondary wife(第二の妻)」や「consort(配偶者・側室)」といった表現を意図的に選択している。
一方で、現代的な「手当をもらって囲われている愛人」を指す場合は「kept woman」や「mistress」がしっくりくる。権力や法律による保護があるのか、それとも個人の感情や金銭関係に基づく非公式な関係なのか。この軸を見極めることこそが、適切な英語選びの第一歩となる。