「防潮構造物は万能の盾ではない」と警鐘を鳴らし続けているのが、災害科学の世界的権威である東北大学の今村文彦教授だ。今村教授は、防潮施設があることによって住民の避難行動が遅れる「心理的トラップ」を数値シミュレーションと行動分析から幾度となく指摘してきた。
構造物が持ちこたえられない規模の津波が押し寄せた場合、津波が天端を乗り越える「越流」が発生する。越流した水流が堤防の背後を削る「洗掘」を引き起こすと、壁そのものが一気に倒壊し、防潮機能を瞬時に失う危険がある。気象庁が大津波警報を発表した際、壁の高さを信じて自宅に留まることは致命的な判断ミスになりかねない。ハードはあくまで避難のための時間を稼ぐ手段に過ぎないという冷徹な認識が不可欠だ。