中島みゆきの通算43作目となるシングルとして『恩知らず』が世に送り出されたのは、2012年10月24日のことでした。同日には通算39枚目のオリジナルアルバム『常夜灯』も同時発売され、そのオープニングを飾るリードトラックとしても大きな注目を集めました。
本作の大きな転機となったのが、テレビ朝日系木曜ミステリー枠で放送されたドラマ『捜査地図の女』の主題歌起用です。主演を務めた若村麻由美が演じる「京都の街並みと地図を完全に記憶する捜査官」の疾走感と、事件の裏側に潜む複雑な人間模様。ドラマ制作陣から寄せられたオファーに対し、中島みゆきが提示したのは、単なる劇伴の枠を超えた「人生の交差点で誰もが抱える割り切れなさ」でした。
制作当時の現場証言によれば、彼女はタイアップ元のプロットを緻密に読み解きつつも、迎合することなく普遍的な歌謡ポップ・ロックへと昇華させたといいます。アップテンポでドライヴ感のある8ビートにアコースティック・ギターのカッティングが重なり、聴き手は一見すると爽快なポップスとして受け止めます。しかし、そこに載せられた言葉の刃は、あまりに深く鋭利でした。この「軽快なアレンジと重厚な詞世界」の落差こそ、中島みゆきが仕掛けた最大の演出意図でした。