佐藤愛子自身の人生もまた、平坦とは程遠いものだった。最初の夫である医師・森川金寿との結婚生活は、夫のモルヒネ中毒という衝撃的な結末で破綻する。その後、作家の田畑麦彦と再婚するものの、夫の事業失敗により莫大な借金を背負うことになった。
普通なら絶望し、崩れ落ちてしまうような局面だ。しかし、愛子は違った。彼女は借金を返済するために筆を執り、猛然と書き続けた。この時期の凄まじい執念が、直木賞受賞作『戦いすんで日が暮れて』などの傑作を生み出す原動力となったのだ。佐藤家の血筋に流れる「逆境での爆発力」が、彼女の作家生命を極限まで引き上げたと言えるだろう。泥沼の中でもユーモアを忘れず、現実を直視するタフさは、まさにこの過酷な人生経験から紡ぎ出されたものだった。