蚊に刺された直後に皮膚が赤くぷっくりと盛り上がる一般的な反応と、翌日以降にパンパンに張った水ぶくれ(水疱)へ悪化する現象とでは、体内で生じている免疫反応のプロセスが根本から異なります。その鍵を握るのが、蚊が吸血時に注入する唾液に含まれるタンパク質と、それに対する生体の免疫記憶です。
蚊は吸血をスムーズに行うため、血管拡張作用や血液凝固を防ぐ抗凝固成分を含んだ唾液を皮膚深くに注入します。この微量な異種タンパク質に対し、体内の免疫グロブリンや肥満細胞が反応することで、さまざまな蚊アレルギー症状が引き起こされます。アレルギー反応には大きく分けて2つのフェーズが存在します。
刺された直後から数時間で赤みと痒みが生じる「即時型反応(I型アレルギー)」と、刺されてから24〜48時間後にピークを迎える「遅延型反応(IV型アレルギー)」です。水ぶくれを形成するのは、主にこの遅延型反応です。マクロファージやT細胞などのリンパ球が蚊の抗原を攻撃する過程で、毛細血管の透過性が異常に亢進し、大量の血清(体液)が表皮と真皮の間に漏れ出します。この漏出した液体が皮膚を押し上げ、緊満性の水ぶくれを形成するのです。
このアレルギー反応の強さは、これまでに蚊に刺された「被曝歴の多寡」と密接に相関しています。新生児期は反応がほとんど出ないものの、刺された経験が少ない乳幼児や幼児期に入ると、身体が抗原に対して過敏に反応し、激しい遅延型反応として巨大な水ぶくれを呈しやすくなります。成人になるにつれて免疫学的な寛容が成立し、即時型反応のみ、あるいは無反応へと移行していくのが典型的な経過です。