日本最古の昔話として認知されている『桃太郎』。誰もが疑わなかった「正義のヒーローが鬼を退治する」という勧善懲悪の構造に、最初に鋭いメスを入れた人物の一人が芥川龍之介だった。彼は短編小説の中で、桃太郎一行による鬼ヶ島侵攻の理不尽さと、討伐された鬼たちの悲劇を冷徹な視点で描き出し、近代文学史に深い楔を打ち込んだ。
陰陽道や古代神話において、桃は魔を祓う神聖な果実であり、犬は異界と現世の境目を見張る霊獣とされる。単なるお供と果物の組み合わせに見える伝承の裏には、生と死、秩序と混沌を象徴する高度な抽象思考が隠されていたのだ。