サンリオ創業者である辻信太郎氏の経歴を振り返ると、最初から順風満帆なビジネスエリートだったわけではありません。1927年(昭和2年)に山梨県甲府市で生まれた辻氏は、桐生高等工業学校(現・群馬大学工学部)で化学を学んだ後、山梨県庁に勤務する公務員としてキャリアをスタートさせました。
しかし、安定した県庁職員の職を辞し、1960年8月10日に資本金100万円で立ち上げたのが、サンリオの前身となる「株式会社山梨シルクセンター」です。当時の山梨県の特産品であった絹製品を販売する事業からスタートした同社ですが、地方の一物産会社が世界的キャラクター企業へと変貌を遂げる契機となったのは、現場でのある小さな気づきでした。
製品の差別化に悩んでいた辻氏は、仕入れたゴム草履に小さな赤いイチゴの絵柄を描いて店頭に並べてみました。すると、無地の草履よりも圧倒的なスピードで売れていく現象を目の当たりにします。「人は単にモノを買うのではなく、そこに付いている可愛らしさや情緒を買っている」。この確信が、小物を扱う雑貨ビジネスへの業態転換、そして自社オリジナルキャラクター開発へと舵を切る決定打となりました。
1973年には社名を「株式会社サンリオ」に変更。山梨シルクセンターの歴史は、商取引の原点を徹底的に見つめ直した辻氏の現場主義から生まれた大転換のドラマでもありました。