漢字研究者の間で「実質的な文献上の最高峰」としてしばしば言及されるのが、128画の幻の漢字ほうしの意味とその特異な構造です。この文字は、84画の「たいと」をさらに巨大化させた形状をしており、「雲」を4つ組み合わせた文字(64画)と、「龍」を4つ組み合わせた文字(𪚥:てつ、64画)を合体させたものです。
中国の後漢時代に編纂された字書や、道教の呪術的儀礼で用いられた秘匿符牒(ふちょう)を伝える古文献によれば、この文字の読みは「ほうし(中国音:péng xǐに近い音)」とされ、龍が天に昇り雷雲が激しく鳴り響く強烈な自然現象の音を表した擬声語・擬態語であると解釈されています。日常的な会話や商取引で使われた文字ではなく、天地の荒ぶる神霊を鎮めるための象徴的記号として考案されたという側面が濃厚です。
近年では、国際規格であるUnicode(Unihan Database)における文字採録プロジェクトが急速に進展しています。世界の言語学者や文字研究者が集う「Ideographic Research Group(IRG)」の取り組みにより、中国の古字書や各国の古文書から数万に及ぶ稀少漢字がUnicodeの「Extension(拡張領域)」へ追加登録されてきました。「龍」を4つ重ねた64画の「𪚥(U+2A6A5)」などはすでに正式な文字コードが付与されており、パソコンやスマートフォンでの正確なフォント表示が可能になっています。
辞書編纂の現場において、ある文字が最も画数の多い漢字と呼ばれる決定的な理由は、単に「線を多く引いた」という事実ではなく、「確かな出典文献(一次資料)が存在し、字音と字義が明確に定義されているか」という学術的要件をクリアしているかどうかにあります。その点において、84画の「たいと」や128画の「ほうし」は、単なるネットの落書きとは一線を画す歴史的重みを持っています。