11月のフラワーショップで主役を張る植物といえば、冬の鉢花の女王シクラメンと、日本古来の美意識を宿す椿(ツバキ)です。ところが、この二大巨頭こそが「11月の誕生花 怖い花言葉」の検索動機を形成している張本人に他なりません。
都内大手フラワーショップの仕入れ担当者は次のように証言します。「11月になると『シクラメンを誕生日に贈りたいが、縁起が悪いと聞いて躊躇している』という相談が毎年寄せられます。特にご年配の方やマナーに厳しい層への贈り物では、細心の注意を払う必要があります」。
シクラメンが忌避される最大の要因は、その名称の響きにあります。「シ(死)」と「ク(苦)」の二文字が含まれることから、古くから病院のお見舞いや快気祝いにおいてタブー視されてきました。さらに、西洋の花言葉において赤のシクラメンは「嫉妬」を意味します。花弁が反り返り、うつむくように咲く独特の草姿が、激情を胸に秘めて視線を伏せる女性の姿に重ね合わされたことに由来します。
一方の椿(ツバキ)も、武士の時代から「花首ごと落ちる様子が打ち首を想起させる」として凶兆のシンボルとされてきた経緯があります。ツバキ全般の花言葉には「気取らない優雅さ」「控えめな素晴らしさ」という高潔な意味が与えられているものの、海外の伝承や近代文学の影響により、白椿には「破滅的な完全愛」、西洋の解釈では「私の運命はあなたの手の中にある」といった重すぎる執着のニュアンスが付与されるケースが存在します。
花卉園芸史の記録を紐解くと、誕生花の多くは19世紀ビクトリア朝期のイギリスやフランスで大流行した「花言葉の小辞典」に端を発しています。当時の社交界では、口に出せない密やかな感情——叶わぬ恋の苦しみやライバルへの憎悪——を花に託して手渡す符牒(ふちょう)文化が栄えました。私たちが目にする「怖い花言葉」の正体は、かつての貴族たちが交わした生々しい人間ドラマの残滓なのです。