メールの結びで「お体にご自愛ください」と書くと、なぜ一部の識者やマナー講師からNGを出されるのか。その決定的な理由は、日本語の語源と構文における二重表現・重言の真相にあります。
漢字の「自愛」を紐解くと、「自らを愛する」、すなわち「自分自身の健康に配慮し、体を大切にする」という意味がすでに単語の中に完結して含まれています。そのため、言葉の前に「お体に」を付け足してしまうと、「自分の体に、自分の体を大切にしてください」という重複が生じます。これは日常会話で見られる「頭痛が痛い」「馬から落馬する」といった重言とまったく同じ構図です。
したがって、文法的に整った美しい日本語としては、シンプルに「どうぞご自愛ください」あるいは「何卒ご自愛くださいませ」と表現するのが正統派の作法とされます。
また、文字入力の際の変換ミスで見逃せないのがご慈愛とご自愛の違いです。「慈愛」は親が我が子を慈しむような深い愛情を意味し、主に目上の人から受ける慈しみの情(例:「ご慈愛を賜り」)を指します。相手に対して「ご慈愛ください」と書いてしまうと、「私に情けをかけてください」という全く異なるニュアンスになりかねないため、変換時のチェックは必須です。
さらに、知恵袋やSNSで時折話題にのぼるのが男性へのご自愛くださいの適否です。「自愛」という響きが女性的、あるいは私的な手紙のトーンを感じさせるという俗説が存在しますが、これは言語学的な根拠を欠いた誤解に過ぎません。「自愛」は古くから性別を問わず公私両面で用いられてきた格調高い漢語であり、男性の取引先や上司に向けて使用しても一切問題ありません。